派遣OLの退屈な毎日

30歳派遣OLの日常を日記風に書きます

アルバイト

派遣の給料だけじゃ生きていけないから、アルバイトしようと思って検索していたらだんだんバカらしくなってきた。

自由な時間がほしくて派遣になったのに結果生活できなくてバイトするなら派遣を選んだ意味もない。ポールのバイトが良かったけれど、そんな都合のいいアルバイトもないみたい。色んなことが面倒。毎日。

深夜便

人生で一番好きな時間を問われたら深夜発の飛行機に乗っている時と答える。

街の光が少し落ちついた深夜の車一つ一つの動き。道を教えるオレンジの街灯。昼間は汚い東京が闇に消されて光だけが浮いている。斜め上からゆっくり凱旋しながら眺めていると生きている街を感じられる。

海外から経つ時も、短い時間過ごした街の光が闇夜と共に動いて、私がいなくなった後も変わらず毎日が続いていくのだろうと感じて切なくなる。どの国も街も、東京とは全く違う光を持っている。小さくなっていく光達を見て、良い街だったと回想に耽る。街の光はもう足元から遠くにいる人たちだけを向いて輝いている。私は光を上から眺める事しかできないんだと、旅の終わりを教えてくれる薄暗い飛行機の小さな窓側席は、世界で一番良い時間を私にくれる。

江國香織

中学から高校にかけて江國香織の本ばかり読んでいた時期がある。

彼女の本は劇的な話の変化もなく、淡々としていたからあまり内容についての記憶がない。それでも文章から漂う大人の香りが好きだった事は覚えている。

恋愛の経験なんてないけれど、江國香織の本を読むと大人の香りを身体に少しだけ纏う事ができて気に入っていた。隣の男子校について馬鹿みたいに騒ぐクラスの女の子よりよっぽど自分が優れていると自惚れていた。


彼女の本を読むのをやめたのは突然だった。高校に入って塾に通い始めた時、個人指導をするアルバイトの男子大学生に本を読むのが好きと伝えると「江國香織が好きでしょう?」と言われた。私は本が好きとしか言わなかったのでとても驚いた。江國香織の本の強烈な香りに私が麻痺してるんだと気がついた。もうそれがどんな香りなのかよくわからなくなっていた。私は怖くなって、その日から彼女の本を読むのをぱたりとやめた。

音大か美大か

17歳の頃、音大に進むか美大に進むか悩んだ時期があった。

ピアノをずっとやっていたから、音楽の先生は私に音大を受けさせたいという密かな希望を持っていて、音大受験を度々勧めてきた。

17歳の私は、自分の伸び代が見えない美大を取った。ピアノは普通の人より良く出来たけど、音大に行ってもピアノの先生になる道位しかないと自分の天井がわかっていて、つまらないように思えた。それに17歳の私はピアノより声楽が楽しくなっている時期だったからピアノ科への憧れが薄かった。対して美大は未来が見えない楽しさがあった。美術の美の字もわからない位縁がなかったから、これから頑張ってどこまでいけるかという挑戦の心があった。何もかもが新しい価値観で魅力的にうつった。見えない音楽より見える色彩の渦が新鮮だった。だから音大ではなく美大を取った。

13年経って、結局その選択が合ってたのかよくわからない。私は高い美大の学費を全部棒に振って派遣社員をやっているけど、ピアノの先生の方が良かったのかしら。それともピアノ科に進んだところでやっぱりやる気がなくなって、退屈な毎日を送っていたのかしら。

コンラッド東京

友達に会いたかった。特別絆が深いわけでもないし、喋る話題もない関係だけど、同じ大学で同じゼミにいた友達は、私が何しても許してくれる数少ない友達だった。たまたま見たvogueかELLEかで紹介されてたコンラッド東京アフタヌーンティーに誘ってすぐにいいよと返事をくれた。


コンラッドは初めてでそこそこ綺麗だけどエントランスの照明が酷い。その後も単調な照明が続いて、五月に行ったアマン東京が素晴らしかったのを再確認した。

窓際の席に案内されて大きな窓の先に浜離宮が見える。天気が良かったから沢山の人が蠢いているのがわかる。アフタヌーンティーはハロウィンの限定で、いかにも日本人がデザインしたらしい漫画みたいなお菓子が四角いガラスのプレートの上に並ぶ。特別感想はないから、「可愛いね」とだけ友達に伝えた。ガラスのプレートは真上の空を反射して綺麗な雲が浮き出ていて、そっちの方がよっぽど魅力的だった。オレンジが基調のお菓子を二人で食べきると、四角い空が完成して私は満足した。

派遣社員

駅のホームで電車を待っていると、考え事をよくする。
明日からまた平日で、会社の何も楽しく無い仕事の時間が待っている。生きるためにはお金が必要で、お金を貰うために働くしかないけれど、こんなつまらなくてしんどい思いをしてまでお金を貰わなきゃいけないの、よくわからない。そこまでして生きたいと思わないし、面倒くさい。
仕事が終わればすぐに家に帰って家族の夕食を作らないといけない。私は食べる事への興味が薄いから、食事を作る事がとても辛い。家を出たいけど、自立出来るほどの給料も貰ってないから、一人暮らしなんてできない。誰か私を猫みたいに飼ってくれる人がいればいいのにっていつも思う。飽きたら殺して貰って全然構わないのに。私も生きるの退屈だから、何も怒らないよ。

日比谷線六本木駅

六本木はたいした思い入れもない場所だけど、日比谷線六本木駅から六本木ヒルズへ通るエスカレーターの吹き抜け空間だけは宇宙みたいでいつも高揚する。特に夜は、闇夜が透けたガラス張りの中で、大きなパネルから流れる浮遊感のあるコマーシャル音とエスカレーターが無重力のような雰囲気を出してる。

六本木アートナイトはアートに熱心でない人の視線と、大衆に近づこうとするアートの気持ちが渦巻いていてどっと額に汗をかいた。素敵だと思うけれど気持ちが少し疲れる。芸術の事になると急に意見が厳しくなる自分がいやになる。逃げるように人の隙間を抜けてあの空間に足を一歩踏み入れると、ゆるやかに下へ吸い込まれる自分の体、遠くから流れる映画のCMの音と東京ガスの事を話す低い男性の声が入り混じって聞こえて、とたんに冷静になる。ガラスの向こうは闇で真っ黒で、その間を白い鉄の支柱達が光を乗せて垂直に走っている。宇宙に行けそう。